昨日、マン島TTレーサーであり、友人の松下佳成の葬儀に参列してきた。
彼とは2008年のもて耐にBMWのHP2 SPORTSで参戦したのを機に、公私ともに仲良くさせてもらった。
その翌年となる2009年には、自身の長年の夢でもあったマン島TTへ参戦するチャンスを掴み、今年を含めた丸5年間は正にマン島TTのために全力投球で頑張っていた。
ご存じの方も多いと思うが、2009年の初戦にて彼は3レースを消化する予定の2レース目でまさかの大転倒を起こしてしまう。
そのダメージは深刻で、日本に戻ってからも治療とリハビリは長く続いた。
肩胛骨の手術は非常に困難を伴い、手術は成功したものの、骨を固定するボルト類は再手術の難易性から、そのまま放置が余儀なくされるほどのものだった。
足の骨折も重症で、骨折した部位が血管の少ない箇所だったため、状況によっては壊死をおこす可能性もあり、くるぶしからの完全固定(関節固定となる)の可能性も宣告されていた。
そんな状況の中、翌年の2010年の参戦は諦め、リハビリに専念することに。
自分が起こしてしまったミスから折角のチャンスを逃してしまう焦りと何処にもぶつけられない憤りに、この年の松下はどこか情緒不安定なところが見受けられた。
初戦でエントリーしたチームはマン島TTでは名門の「Black Horse
Racing Team」。
2011年もこのチームからのエントリーを打診していたようだが、交渉は紆余曲折を繰り返していた。
しかし、ここで諦めないのが松下佳成である。
周囲の協力を取り付け、より魅力的なチームでの参戦チケットを掴むことに成功する。
正直、その話を彼から聞いた時、非常に複雑な心境だったことを思い出す。
それは松下がマン島TTに参戦するようになって、YouTubeなどの動画サイトを頻繁に見るようになり、そのレースの危険度とリスクの高さを改めて知ったからである。
マン島TTは自分が今まで携わってきたロードレースとは全く違う次元のレース。
バイクこそロードレースと同じ車種が使われるが、求められるライディングスキルやノウハウなどは全く別物と言っても良いかもしれない。
それは今回の事故の要因でもあった、超高速域でのジャンプもそのひとつ。
時速280km/hを超える速度域でのジャンプは想像すら難しい。
自分も鈴鹿サーキットで同じようなスピード域で走ったことはあるが、それは路面のギャップも少なくコース幅も広い日本のサーキットでの話。
マン島TTは一般道を使った公道レース。
ごく普通の2車線道路を、小さなギャップが連続するようなコンディションの中で全開走行するのである。
しかもジャンプセクションをクリアしながら。
松下は生前、マン島TTはロードレースであってロードレースではないと言っていた。
それは前述のことからも分かるように、一般的なレースという物差しでは計れないものが多数存在するからで、彼曰くマン島TTは、エクストリームスキーやエクストリームサーフィンなどと同じく、その世界の中で究極を求めたスポーツと同じ匂いがするとも言っていた。
だれも滑れないような絶壁を滑降するスキーヤーやスノーボーダー。
ハワイのノースショアに発生する巨大波(ジョーズ)に乗るサーファーやウインドサーファー。
彼ら(彼女ら)も命がけでそのスポーツに挑み、そして楽しんでいる。
無謀のように見えるそれらの行為は、それまでに培ったテクニックやスキル、ノウハウなどに裏打ちされている。
しかし、所詮人間が行う行為。
「絶対」や「完璧」などは存在せず、ワンミスであの世行きになる可能性もある。
マン島TTと同じだ。
しかし、そんな彼らの写真や映像を見ると「何故」や「怖い」という気持ちと同時に「格好いい!」という気持ちが自然に湧き上がってくる。
それは、人間の究極を求める心理からくるものではないだろうか。
そう考えると、松下が挑戦したマン島TTも同じセグメントに属する究極のスポーツだったと納得ができる。
自分がやるかやらないかは別にして、「すごい!」や「格好いい!」、「素晴らしい!」などの表現や感情は、それが命がけだったとしても変わることなく湧き上がってくるものだ。
松下はその思いを胸に、見る側ではなく、やる側に回った。
彼は今回の事故も最悪の事態も想定していたに違いない。
何故ならそれは、身近にいた同僚や先輩、仲間が同じような事故に遭遇しているからで、自分は絶対に大丈夫とは言えないことに足を突っ込んでいることは、彼自身が一番感じていたはずだからである。
それでも彼は挑戦し続け、自分の限界と対峙してきた。
大きな怪我をしても不屈の精神でカムバックし、全身全霊でマン島TTを愛し、マン島TTを走った。
そして彼はその夢だった世界で他界した。
マン島TTの賛否を含め、色々な意見があるのも分かる。だが一つだけ確実に彼に対して言えることがある。
それは、松下佳成は「真のチャレンジャー」であり、「夢を実現した男」であり、そして何よりも「格好よかった」ということ。
自分にとって本当に大きな存在であり、友人でもあった松下佳成。
彼と話したり、一緒にバイクに乗ったり、酒を酌み交わしたりすることはもう出来ないけど、彼のチャレンジ精神や冒険心は自分の心の中から消えることはない。
今まで本当にありがとう。


